舞台ぼっち・ざ・ろっく

一日一更新、五十八日目。

本来なら今日は、ぼっち・ざ・ろっくの舞台を観に行く予定だったのだが、演者さんの体調不良により公演自体が中止になってしまったため予定がなくなり、こうして今日記を書いている次第である。無念…

舞台というのは生ものなので、条件が揃わずに中止というのは起こり得ることだから仕方ない。むしろ、早い段階で中止発表をしてくれたぼざろ舞台公式さんには感謝したい気持ちだ。観劇のために遠方から来る予定だった人もいるだろうし、早めに判断できるに越したことはない。中止はもちろん残念だけれども。

ぼざろは、わたしはアニメを楽しく観て、劇場版はまだ見れていない(本当なら前編を友達と観に行く予定だったのが、体調不良で行けなくなってしまったのです)のだが、去年舞台を観に行ったらこれが本当に凄かった。一度観ているとはいえ、あれをどうしてももう一度現地で観たいという気持ちで、今年再演を申し込んだ。このあと続編があるのでそっちは観に行く予定です。

ぼっちざろっくは、内向的でネガティブな女の子(家でひたすらギターの練習をしたのでネットに公開中の「弾いてみた動画」では無双している)が初めて組んだバンドでライジングしていく物語なのだが、その舞台版では、主人公たちの組むバンド・結束バンドのライブで、役者さんたちが実際に演奏する場面がある。これが凄いのである。

主人公のぼっちちゃんは、臆病で後ろ向きで挙動不審で、オドオド、ビクビクしながらずっと独り言を言っている、控えめに言って様子のおかしい子なのだけれど、ぼっちちゃん役の役者さんが本当にぼっちちゃんそのもので、舞台の上で落ち着きなくずっと気持ち悪い挙動を繰り返していて、しかしギターはめちゃくちゃ上手い。めちゃくちゃ上手いのに、弾いている間じゅう全然顔を上げずに自分の手元ばかり見ていて、弾いている姿がイマイチカッコ良くない。でも、その泥臭く必死な様子から、この自信なさげな子がギターだけはめちゃくちゃ練習してきたんだなあと伝わる。まさにぼっちちゃんそのものなのである。

ボーカルのキタちゃんは、明るくて可愛くて社交的で、なんだかめちゃくちゃ声が通るし歌がめっちゃ上手い。でもこの子も、ぼっちちゃんとは違う何かが決定的に欠けていて、大事なところで逃げ出してしまったり嘘をついてしまったりする子である。人も羨む魅力を持っているのに、彼女もまた自分自身を好きになりきれない、卑怯で臆病なところを持ち合せた子で、この子がぼっちちゃんの作った歌詞を歌うと、全然違う暮らしを送ってきた人の魂が、根源的な部分で共鳴しているのを感じさせる。舞台版での彼女の歌声もまた心に訴えかけてくるものがあって、感動的である。

ベースのリョウさんは、一見カッコ良いクールなキャラなのだが、間違いなくこの人が一番破綻している人間である。バンドメンバーの中でベーシストが一番付き合ってはいけない人種だとはよく言われるところであるが(わたしも元ベーシストなので嫌な言説だなあとは思いつつ、ちょっと分かってしまう)リョウはその言説を体現したかのような駄目人間で、騙されやすいぼっちちゃんに上手くたかっては、飯を奢らせたりしている。感情が表に出ないリョウだが、結束バンドで演奏しているベースには顕著に彼女の感情が浮き出ていて、生演奏で聴くと特に、その昂りが胸を打つのである。

ドラムの虹夏ちゃんは、結束バンドの良心である。上記のようなヤバい人たちを彼女がひとつのバンドとしてとりまとめていくリーダー的存在、兼ツッコミ担当である。また、後ろ向きなぼっちちゃんを彼女の強引さとマイペースで引っ張っていく、物語の牽引役でもある。その特性がドラムプレイにもちゃんとかかっていて、彼女が緊張で焦ると彼女のドラムもまた走ってしまい、他メンバーの演奏に大きく影響する。舞台の終盤で訪れるこの「演奏失敗パート」が最大の見どころで、中盤に素晴らしいパフォーマンスを見せたのと同じ曲で今度は下手な演奏をしてしまうという、難しい芝居を見事に演ってのけている。虹夏のドラムが走り、それに引きずられるようにしてリョウのベースもズレてしまい、先輩二人のリズム隊がかみ合わない中、ライブハウス内に異様な緊張感と白けた雰囲気が漂う…というあのアニメであった場面を、現地のライブハウスの一観客として体験できるわけだ。そしてその直後、「このままでは駄目だ、わたしたちはまだ下手くそだ、なんとかしないと…!」と奮起したぼっちちゃんが、予定にないソロプレイで空気を一新させ、ソロの終わりと同時に虹夏のドラミングが冴えわたりバンドが息を吹き返す場面。その瞬間は、もはや「アニメの再現」のレベルを優に超え、バンドが生き物になって目覚めていくところを目撃できる喜びに満ちていた。

去年観たとき、ほとんどすべての演奏シーンでわたしは泣いていた。ここに至るまでに彼女たちが芝居に、演奏に重ねてきた努力の痕が随所に見られ、キタちゃんの歌声は本当に、キタちゃんの言葉そのものであるかのように響いていた。

また、観に来たお客さんも普段から2.5次元舞台の観劇に慣れている客層ではなく(わたしも含め)、開始前には「アニメのキャラのイメージが壊れたらどうしよう」という不安が漠然と場内に漂っているような気がしたのだが、舞台が進むにつれ徐々に会場が温まっていき、中盤のオーディションライブの生演奏で満場の拍手が出たときには、なんだかわたしも嬉しくなってしまった。

再上演がアクシデントで中止になってしまったのは残念だが、ぜひリベンジ公演での再・再上演を期待しています。